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2011.10.01 Sat l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top
短編がごちゃごちゃしてきたので、目次を作ってみました。

#1『月が奇麗なのは』
#2『ソルビンさん』
#3『落下傘』
#4『今でもまだ後悔していること』
#5『共選場にて』
#6『ヤキツマサキ』
#7『メメント・モリ』
#8『村八分』
#9『サイダー』
#10『生きててよかった!』
#11『東の夕焼け』
#12『世界が終る夜に』
#13『風に立つライオンに、よろしく』
#14『風に立つライオンさんへ』
#15『絶望の砂漠』
#16『この道の向こうで』
#17『鶏頭のYASUO』
#18『巻尺談義』
#19『中吊りポスター』
#20『よりどころ』
#21『空の視座』
#22『時雨』
#23『なっちぇる』
#24『ソクラテスの血』
#25『春に』
#26『茶番』
#27『僕らの時計』
#28『夜の死者』
#29『狼』
#30『益浦神社』
#31『ただ、誠実に』
#32『ありふれた永遠』
#33『レポ友』
#34『ええっしょ』
#35『ランプの廃人』
#36『縁、或いは空がなす色、或いは有機的な世界』
#37『##ここに我々の名前を入力##』
#38『アイなど無い』
#39『「テツ」という、犬がいた』
#40『いつかの海の声が聞こえる』
#41『処刑』
#42『ドッペルゲンキガー』
#43『山桑』
#44『贈り物』
#45『ある少年の不条理体験』
#46『回顧録』
#47『蛇にまつわる怪談話』
#48『電子的二十面相』
#49『夢の国』
#50『みどりと僕』

1000文字小説目次(51-100)→こちら

※追記にて、作者個人のお気に入りを10作品ほど選んでみます。
2011.10.04 Tue l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top


#51『二人の父』
#52『山中燻る火に注意』
#53『とんぼさん』
#54『平和が一番』
#55『スケール可変的な議題』
#56『サカハチチョウ春型』
#57『窓の霜が融けるまで』
#58『荒野に唄う』
#59『めっぱ』
#60『街燈』
#61『ボーイミーツガール』
#62『狂気』
#63『連環の希求』
#64『寸劇』
#65『仮面連盟』
#66『笑うフライドチキン』
#67『少年時代』
#68『みんなちがってみんないい』
#69『神様いわく』
#70『フォー・ザ・スカイ』
#71『回顧録ver.2』
#72『メテオ』
#73『平野さんに対するデート招致についての結果報告』
#74『思春の砦』
#75『閉塞感』
#76『汽車に乗って』
#77『寂しがるる』
#78『ラヴレター』
#79『シミ』
#80『不死鳥の話』
#81『月曜日の前に』
#82『ミズナラメウロコタマフシ』
#83『はじめまして』
#84『遥か』
#85『おぼんやすみ』
#86『逃げ水』
#87『錯誤』
#88『足跡』
#89『雪男』
#90『恋慕日記』
#92『女友達』
#92『サッカーボールにまつわる話』
#93『たしかなもの』
#94『柵』
#95『かいな』
#96『休養林』
#97『穴に落ちた男』
#98『ホームレス彼女』
#99『暗闇』
#100『川』

1000文字小説目次(1-50)→こちら
2011.10.09 Sun l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top
 『月が綺麗ですね』

 ふふふと笑って私は送信ボタンを押した。ふと窓を見るとあまりに綺麗な満月だったから、悪戯心が携帯電話を開かせた。

 以前ネットの掲示板で、それぞれの好きな人に、この有名な夏目漱石の言葉を送りつけるという悪戯が繰り広げられていた。その頃は他人事だと思っていたのだけど、ブームが去った「いまさら」なら、なんとなく自分にもできるような気がしたのだった。今頃あの人は、家でビールでも飲んでいるのかな。

 間もなく返信が来た。深呼吸をしてから、私はちょっと恥ずかしくなり「なーにやってんだか」と心の中で呟いて、一思いに画面を開く。

 『ああ本当だ。ちょうど雲が晴れてる』

 ……鈍いなぁ。一気に自分自身がバカバカしくなって、私は携帯電話を放り出す。でももう、今のは無かったことに、なんて言えない。かといってまともな返事をするのも嫌だったから、渋々携帯を拾い上げた私は敬語調のままおざなりな返事を送る。

 『ですね』

 以上、終了。馬鹿みたいだから構わないで。

 ところがちょっと間をおいて、彼はあっけらかんと話題を繰り出す。

 『それより、明日の夜忙しい?』

 知らないよ、そんなの。私は荒みきっていた。話題を流してくれたのはありがたいけれど、「それより」というあしらい方がまた、私の癇に障る。

 『別にー。なんか用?』

 冷たいなぁ、と彼もきっと思っている。ここにきて「少し愛想が無さすぎるかな」と想い始めた私だが、今さら態度を改めるのは気が引けて、こんなふうにしか言えない。そんな自分に嫌気がさして、私はデスクに突っ伏したが、間もなくバイブにびっくりして机の角に膝を打つ。

 『もし暇だったらメシ食いに行かない?空がよく見える店、知ってるんだけど』

 その返信画面を見つめたまま、私はしばらく考えた。お月見をしようという事なのか。お誘いは正直嬉しいけれど、「それより」と流しておきながらネタを蒸し返すとはどういうつもりだろう。

 『いいけど、なんで?』

 『そんな気分だからだよ』

 ちょっと可笑しくなりながら『なんだそれ』と送信画面。

 すると珍しく返信が遅かった。

 『満月じゃないけどさ、明日のほうが綺麗に見えそうだ』

 彼の言っている意味がちょっとよく分からない。よく分からないけれど、もしかしたら私はすごく鈍いんじゃないだろうか、という意味不明な恥ずかしさがこみ上げてきた。

 空を見れば、彼も見上げているだろう大きな月が、ふふふと笑っている。
2011.11.07 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top
 僕は気づいてしまった。彼はこの国の人間ではなかったのだ。しかし、なぜか彼は僕を敵視しなかった。連れてこられた薄暗いバーの一角で、彼は僕に打ち明けてくれた。

 「私はブレイン連邦の命を受けてやってきたスパイだ。この国は腐りかけている。それを阻止するために私は派遣されたのだ。幸い気づく者がほとんど(この時ちょっと僕を見て)いなかったものだから、諜報活動は円滑に進めることができた。もうじき最後の任務を果たす時が来るだろう」

 それは、なんですか?と聞いてから、僕はしまった、と思った。なにせ彼はスパイなのだ。下手なことは喋れないだろう。しかし彼は少し微笑んでからすらりと答えた。

 「囮だよ」

 オトリ……その言葉が僕にはよく飲み込めず、しばらく唖然とした。そして次に、その言葉はとても危険な意味であるように感じられた。

 「どういうことですか」

 僕はそう聞かないわけにはいかなかった。

 「この国は数日のうちにインテスティン王国に吸収される。それまでに、私は腐敗を止めなければならない」

 彼は淡々と続ける。

 「腐敗の原因はデ・ヒドロ・ゲナーゼ卿らの組織的な陰謀によるものだ。奴らは次々に『アシッド』と呼ばれる勢力グループを巻き込んで、国を乗っ取ろうとしている。その流れを、私はこれから止めに行く」

 無茶だ……。困惑しながら呟く僕に、彼は微笑みかけた。

 「私を侮ってもらっては困る。奴らはきっと、私を『アシッド』としてすんなり受け入れるだろう。今までの活動で、私の信頼は既にかなりのものとなっているから、そう苦労することなく私は幹部へ導かれる。そして次の瞬間……私はゲナーゼ卿の首を押さえる」

 その時の殺気に僕は鳥肌が立ち、ハッとして周りを見渡した。そしてゾッとした。ここにいる人たちは、全員……。

 「一つだけ忠告しよう。無国籍の私『たち』は皆奴らを憎んでいる。今回はブレイン連邦の頼みだったが、普段は無差別にゲナーゼの類の攻略を狙っているのだ。そして悲しい事実だが、かのインテスティン王国は陰で奴らの一派と濃厚な関係を持っているらしい。この国とは逆に、それで体制を保っている。これが何を意味するかわかるか?」

 僕は答えられない。ソルビンさんは僕の肩に手を置いて言った。

 「この国から離れろ、グルシトール君。いや、兄弟」



 噂だが、王国はサンドイッチ小国吸収の後、深刻な機能不全を起こしたらしい。

 兄の行方の情報はまだ、異国の僕には届かない。


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ソルビン酸:ナナカマドの一種(Sorbus aucuparia)の未熟な果実から発見された不飽和脂肪酸。保存料として用いられるが、腸内細菌などにも影響を及ぼす。
グルシトール:ナナカマドの一種から発見された糖アルコール。甘味料などに使用される。別名「ソルビトール」「ソルビット」。
2011.11.07 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top