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アツモリソウ、という、絶滅に瀕した花がある。
今もきっとどこかで盗掘が行われているでしょう。
憂いに満ちた目で、植物エリアの管理人はそう俺に語った。
ええっと、それはお気の毒に。
怒られそうな返事だが、正直俺にはこうとしか答えられなかった。
かわいそう。
きっと多くの人はそんな感想を持つだろう。
苦渋に満ちた顔で、「どげんかせんといかん」なんて言うかもしれない。
けれどその正義感が、俺には鬱陶しかった。
こっちには守るべきものが山ほどあるのだ。
砂漠で水を得ることよりも、遠くで起こる飢饉は大事か?
趣味みたいな同情は、もはや失礼だろう。
饐えた感情がこみ上げてくるのを抑えて、俺は植物エリアを後にした。
せっかくデートに来たのに、あいつはまだトイレに居座っている。
そんなに酷いこと、言ったかな。
たぶんあいつは泣いているのだろう。
チンパンジーに似てるって、からかっただけで拗ねやがって。
ツイッターに、俺は暇つぶしで「マジで振られる5秒前なう」と書き込んだ。
……て、冗談になってないかもなぁ。
とりあえず、他人さまにも迷惑だから、早く出てこいとは思う。

泣きはらした目をしてヤツが出てきたのは、それから10分後だった。
苦笑いを浮かべて謝ってみるも、無視。
ヌートリア見に行こうぜと言っても、無視。
ねぇ、チンパンジーになんか似てないから!
……能面みたいな顔が、俺に向けられた。

吐いたため息はわずかに白い湯気を残す。
ひんやりした風が、余計に二人を寒くするようだった。
冬を越すまでは、続くと周りに断言していた。
平均的な反応としては、「いや、無理だろう」とのこと。
――本当にお前は鈍い人間だからなぁ。
――マジであの子がお前を好きになった理由がわからん。
みんな口をそろえてそう言うのだった。
むくれっつらのほっぺを見ながら、俺は心で舌打ちをする。
めちゃくちゃ思いやっているつもりなのに、どうしてうまくいかないんだろう。
もう、好きにしろよ……。

……やって来たのは、「ヌートリアふれあいパーク」。
ゆっくり草を食うヌートリアを、奴は興味深げに見つめている。
「寄ってかないの?」と、帰ろうとした俺の裾を奴が掴んだのだった。
楽観視すれば、奴の御機嫌はこれですこし直ったのだろう。
リュックには、その証拠に、お土産のぬいぐるみがたくさん詰めこまれた。
ルーマニア製の俺の財布がだいぶ痩せてしまったことは、この際我慢しよう。

レストランに入って夕食をとる帰り道。
ロザリオとラザニアを取り違えて笑われた後にもう一度謝ると、奴はようやく「いいよ」と言った。
「私の彼氏はマントヒヒ似だからお似合いだもん」とも言ったけど。
をい、まだちょっと、恨んでんだろ。
「ん?」と奴はとぼけたように笑ってみせる。


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バトンで短編小説。(の遺跡)
ファンタジーなお話よりは、こういう日常を切り取った感じのほうが書きやすいのです。
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2011.11.07 Mon l その他作品 l コメント (0) トラックバック (0) l top
「たのしい?」っていうと

「たのしい」っていう

「あいしてる?」っていうと

「あいしてる」っていう

「ほんとうに、あいしてる?」っていうと

「ほんどうに、あいしてる」っていう

だけれど、なんだか、あやしくなって

「じつは、ちょっとあきてる?」っていうと

「じつは、ちょっとあきてる」っていう

こだまでしょうか?

まぁ、「恋を騙し騙し」というなら、だれでも


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※外歩いてるときに唐突に浮かんだ。これで俺も流行りに乗れると思った。乗る流行りがもうなかった。
2011.11.26 Sat l その他作品 l コメント (0) トラックバック (0) l top
なんとなく、ただなんとなく、五・七・五
下の句付きも、結構できた


寒風も香りなるかな鼻の孔

雪幕や我に迫らむ神隠し

黄昏のカケスが降らす根雪かな



「降ったね」と置き去りにけり初雪の 行く当ても無き道を縋りて

霜焼けに感慨も無くばりばりと あな疎ましき静電気かな

窓越しの美雪の君を描きけり ただ描きけり夜の帳に

モミの山ひた降りいたる白粉の 愚痴を聞きあうリスと私と

しめ縄をトイレで作る荒れの暮れ 資源の無駄と母にも疎まれ
2011.12.01 Thu l その他作品 l コメント (0) トラックバック (0) l top
白雪にふられふられど残り香の 立つ瀬憂えむ空の細道

更けた夜の微糖コーヒー自販機に 君は来ぬかと指を迷わせ
2011.12.04 Sun l その他作品 l コメント (0) トラックバック (0) l top

 星が見たいと思った

 誰に救いを求めるでもなく

 ただこの目は星座すら結べない

 分かち合う寒空にせめて

 白いと息をそっと浮かべ

 何食わぬ顔で歩き出す

 永遠に去ると笑つた夕べ



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※二年前のフォルダから出てきた(迫真)
2011.12.19 Mon l その他作品 l コメント (0) トラックバック (0) l top