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我々は宇宙人だ。名前はまだない。

土曜日の朝、生臭いきりたんぽの執拗な誘惑に負け、さもそれが世間を揺るがすしなちくの血便であるかのように耳をほじくるのがかずし。

あるがままを求めて一糸まとわぬ息子がつよし。

適温の湯船にそっと親指を立て、そこに描かれたかずしの顔に「ぼくが息を止めるとスイスの空がちょっと輝くよ」と言わせるのがてつし。

そんな彼らの毎日を、山崎パンの段ボールから見守る我々には名前がまだない。

あると思ったか?それがまだな、ないんだ。

我々の使命は世界の征服ということになっている。無論初期設定ではない。

だが名前がないのでは、征服した時になんと名乗ればいいか分からない。

だから絶賛募集中であるという張り紙を電柱に張り付けていたのがきよし。

ん?彼は誰?彼は我々の仲間だった半裸人だ。

しかし名前を与えられてしまったので段ボールから追放したのである。

なぜなら、名前を与えられたらもう我々の仲間ではないからだ。

それでは一生世界征服など無理だって?っていうか、あんた誰?

ああ、もとしくんね。名前があるんだ、へぇ。

ならあまり私を怒らせない方がいい。消えたまえ。

さもなければそのつむじからサボテンの花が咲くことになる。

暁には魔女裁判にかけてやろう。ぶぼぼ、もわ。

失礼、笑ってしまったわ。しかしその禿げ頭、どうにかした方がいい。

つむじが見えないからぶぼぼ!

さて、我々宇宙人にもつむじはある。三つある。

それぞれにはきちんと名前がある。我々にはないのに。

一つ目はおとめ座銀河団。

二つ目はハードボイルドワンダーランド。

三つ目はてつし。

いや、ひとしだったか……そういうのは別に気にしない。

とにかく名前がない。

味噌汁でさえ味噌を除いても「汁」ではなく「お吸い物」という名になるのに。

え、違う?まぁいいや。

さぁ、気付いたかね?しかしもう遅い。残念であった。

ようやくこの薄っぺらい世界は我々の手に落ちようとしているのだもわ!

長い道のりだった。長い道のりだった。

ほらてつし、サライの空だって輝いているよ。

我々はついにここまで来た。そして気付いた。

ようやく気付いたのだ。

我々に名前が与えられるのは、任務を遂行した時なのだということに!

おかあさん、おとうさん。僕たちはこんなに大きく(男の子)

こんなに立派に(女の子)育ちました、かたじけない(全員で)。

さぁフィナーレだ。ここに高らかと名乗ろうではないか。

そう、我らの名は!



「戯言」。


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※こうして見事千文字の世界を落としていった戯言さんだったのである。
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2011.11.30 Wed l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top
僕はトランプを二枚ずつ組み合わせた。

組み合わせて組み合わせて、一つのタワーを作っていた。

「何をしているの?」

そう君は言ったね。

だから二段目にトランプを立てながら、僕はこう言った。

「カタチを作っているんだよ」

「何のカタチを作っているの?」

「物語のカタチだよ」

そう言って僕は三段目のトランプを組み立てる。

奇しくもジョーカーが睨み合った。

「どうして綺麗に仕舞ってあったのに、カタチを作るの?」

「仕舞ったままでは、ここに物語ができないからだよ」

四段目のトランプを立てて、そこに僕は指をさす。

「どうしてそこに物語を作るの?」

「このトランプに意味が生まれるからだよ」

僕は五段目に組んだキングとエースに微笑みかける。

「どんな意味が生まれるの?」

「生まれた意味だよ」

六段目のトランプがパタリと崩れて、僕はそっと組みなおす。

それから君は、ちょっぴり首をかしげたね。

「カタチを作れば、生まれた意味が生まれるの?」

僕はゆっくり頷いた。そうして七段目を作りながら、こう言い換えた。

「仕舞ったままでは、生まれた意味は生まれないよ」

「でも、邪魔にならないの?」

君は空気を指さして言ったね。

何もない方が綺麗だと、無垢の君は思うかい?

八段目にトランプを立て、僕は少しだけ意地悪に答えてみる。

「物語ができなければ、邪魔だと思うよ」

すると君は機転を利かせて、すぐにこう問い返したね。

「物語ができれば、邪魔じゃないの?」

それから僕は少しだけ言葉を探した。

九段目は少し窮屈そう。けどパタリとは倒れない。

「お互いに支え合うのだから、邪魔じゃないよ」

「物語を作れば、お互いが支え合うの?」

「お互いに支え合わなければ、物語は作れないんだよ」

十段目になると難しくて、僕は何度もトランプを立て直しながら答えた。

すると少し考えて、お利巧さんの君は、こう尋ねたね。

「お互いを支え合わなければ、カタチは作れないの?」

僕は再び頷きながら、最後の一組を組み立てる。

そしてそこから離れてみると、歪な一つのタワーになった。

「お互いが支え合えば、生まれた意味が生まれるよ」

「じゃあこうすれば、生まれた意味も死んでしまうの?」

君が手で払うと、パラパラという音を立てて、全ては崩れたね。

そこには何もなくなってしまった。そうだね。もう何もない。

だけれど、生まれた意味は死ぬと思うかい?

僕は君に微笑むよ。

「ほら、見てごらん。生まれた意味はここにあるよ。

物語ができたのだから」
2011.11.27 Sun l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top
「たのしい?」っていうと

「たのしい」っていう

「あいしてる?」っていうと

「あいしてる」っていう

「ほんとうに、あいしてる?」っていうと

「ほんどうに、あいしてる」っていう

だけれど、なんだか、あやしくなって

「じつは、ちょっとあきてる?」っていうと

「じつは、ちょっとあきてる」っていう

こだまでしょうか?

まぁ、「恋を騙し騙し」というなら、だれでも


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※外歩いてるときに唐突に浮かんだ。これで俺も流行りに乗れると思った。乗る流行りがもうなかった。
2011.11.26 Sat l その他作品 l コメント (0) トラックバック (0) l top
古びた西洋風のランプから出てきた彼は、それはもうどこのNEETかと思われるほど荒みきった風貌を呈し、私は無意識のうちに口で呼吸をしながら彼を見ていた。

「やあやあ我こそはランプの精。汝我に何を望むか」

「消えてくれ」

迷わず私はそう言った。

「なるほどそうか、汝己が財産を消してくれと言うか。あい分かった!」

私が口を挟む前に、彼は私の財産を消した。

「さあ残る願いはあと二つ。汝我に何を望むか」

「死んでくれ」

無の平原に裸体を晒す私は迷わずそう言った。

「汝己れを好く者全て死ねと申すか。豪快なやつよ、そおい!」

私が口を挟む前に、彼は40秒後に父や母や数少ない友人が全て死ぬ呪いをかけた。

私は怒りで狂いそうになった。何が豪快だ。お前が豪快に私の身ぐるみを剥いだのではないか。あげく皆殺しやがった。そもそも望みと全然違う。本当にランプの精ならなぁ、ランプの精ならなぁ……!

「ついに願いはあと一つ。我はそれしか叶えられぬぞ。さぁ汝何を望むか」

「私を魔法使いにしろ」

「は?」

彼は初めて言葉に詰まる。さぁ私の主張を聞きやがれ。

「お前がどれだけ偉いか知らんが、人の人生を奪ってどうする。財産を奪ってどうする。パンツを奪ってどうする。ホモか?いや、魔法使いならなぁ、もっと正しく人の要求を聞いたらどうだ。引きこもりすぎて耳垢が詰まっているのではないか?一度耳鼻科へ行くことをお勧めする」

「ありがとう」

彼は鼻をほじりながら言う。

「というか、私を魔法使いにしろ」

私はわなわなと震えながら泣いていた。彼はスレた笑みを浮かべる。

「あんたさぁ、夢見てんじゃねぇよ。こんなことでウジウジしてよぉ、不条理体験足りねぇんだよ。もういっそ俺の代わりにランプ入っとけよ。あったかくて飯も食えるから引きこもってりゃ最高だぞ?ぬくぬくやってりゃ拾われるまでに魔法使いになれるだろうよ」

そうして私はランプに入った。中はあったかくて飯も食えた。ぬくぬくしていたら外に出られないことに気づいた。私は焦燥に駆られた。でも出られなかった。

居心地がよすぎた。

私はガバリと起き上がる。冷たい汗が脇をつたって臭い。

ああそうか、魔人を廃人と読んだのだ。枕の下のエロ本を引っ張り出して私は乾いた笑いを漏らす。次にカレンダーを見て思わず涙ぐむ。

目の前の扉の外に出なくなってどれほど経つのか私にはもう思い出せない。

デリバリーピザを食べ始めて早幾星霜。

私は晴れて三十路を迎えた。


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※おめでとう!
2011.11.25 Fri l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top
最近はもっぱら臨時長編連載「カム研」の執筆にいそしんでいる私である。

さて、このカム研だが、先ほど第七場面まで未推敲記事の掲載が完了した。

4万字強。正直、私としてはこれだけの文量を書けたことに驚きを隠せない。

これが手書きの原稿用紙だったなら、たぶん無理である。

章は十四場面までを予定しているし、ようやくタイトルが何を指すのか明らかになったので、量質ともに、これで話の半分を終えたといえよう。

やれやれである。

今後は現実に即しつつかなりファンタジーな事象も発生する見込みがあるのだが、分類するなら、はたしてこれはラノベの域なのか、ファンタジー小説の部類なのか、はたまたただのゴミなのかは自分でもよくわかっていない。どれだろう。


それはとにかく、今回の記事では一つ大事なお知らせがある。

話の進行がターニング・ポイントを迎えたところで、「カム研」はしばらく連載を中止することにする。

もし続きを楽しみにしてくれる人がいたなら大変申し訳ないのだが、おそらく連載が再開されるのは、半年以上先のことになるであろう。

また、今まで掲載してきた記事についても、そのうち告知の上で公開を中止する予定である。

ぜひお許し願いたい。



ちなみに、第六場面で登場した二年目一年生は、外伝で主人公を務めることが予定されているほど筆者に思いを寄せられている人物である。

まぁ、忘れたころに綴るので、期待はしないで欲しい。以上。
2011.11.22 Tue l 連絡事項 l コメント (0) トラックバック (0) l top