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 マチのガキは枯葉をガサゴソ探っている。こちらに向けている黒いジャンパーの背中は日光を照り返し、腕を動かすたびに揺れて、何となく生意気だ。引っ越してきてからろくに友達も作らないくせに、彼は会うたびに仮面ライダーなんちゃらへと変身する。今日もそのうち寸劇が始まるのだろう。悪者はぼく。暴力的で我が強いのは、呆れるほどマチに似ている。
 軽く厚く積もった枯葉はきっと彼を傷つけたりしないだろうが、ぼくには彼を置き去りにすることができない。平坦な土地一帯、鋭角に幾筋にも幹を分ける背の高い裸木が、どこまでも無造作に乱立している。それらと同じように、それら自身だった生命の燃え滓の絨毯に、ぼくも彼も埋もれた。
「さっきから何を探してるんだよ」
 ガキを見下ろしながら小さく足元の枯葉を蹴る。ガキの手元と同じ音がした。
「兵隊だよ」
「兵隊、こんなところにいるのか。迷彩服でも着て隠れてるの?」
「ううん、茶色。ちっちゃいから葉っぱに隠れられるんだよ」
 ガキはしゃがみながら少しずつ移動している。足を動かすたびに背中は小さく上下する。果敢で機敏で、しかも満足するまでは意地でも動こうとしない様はまるで戦車だ。
「見つけて、集めてるんだな」
「ううん、違うよ。だってここは兵隊の国だもん」
「拾わないで、見るだけなのか」
「そうだよ。みんなで暮らしてるの。ぼくもう学校と教会も見つけたよ」
 ガキに合わせて移動するぼくを制止し、そこ、と彼は指を差す。彼と同じようにしゃがみ、日光に濡れそぼった落ち葉を動かしていくと、楕円形に膨れたドングリがいくつも現れた。一帯の林は広大な夢の領土だった。
 黙々とマチのガキは空想を組み立てていく。そうすれば、母親の姿をも夢見ることができるらしいのだ。ぼくの見たことない、エプロン姿をしたマチ。林の向こうから「帰るよ!」とその声がするのを、この背中は待っている。
 こうなったら、彼を連れ戻すにはぼくが何度でも悪者を演じるしかない。昔仲が良かったからという理由でぼくを頼りにしたマチのおばさんは、そのことをけっこう気にかけているらしい。
 上着のウール生地の触り心地を確かめながら両腕を抱え、立ち上がったとたんに眩暈がした。狭窄感に平衡感覚を奪われ、柔らかな落ち葉の鋸歯が頬を叩く。
 芳しく朽ちていく匂いがする。
「いい匂いだな」
 明度の回復を待つ視界のなかで、振り返ったマチのガキは怪訝そうな顔をしていた。

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短編(http://tanpen.jp/)第147期コンペ作品。

イメージしたのは、ぼくがかつて住んでいた街にあった公園である。普通の土壌の上に大きなミズナラがたくさん生えているところだから、林という表現を不適切と思ったら、比ゆ的な表現ということにしていただきたい。林床植物に関する描写がないのは、公園として整備されているためである。

(追記)
個人的には敢えて舞台上で進む時間的なスケールは小さくしてるのだけど、こういう奥行きを匂わせたタイプの話で魅力を持たせるには、その手法だと相当の筆力が必要なのかも知れぬ。
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2015.01.08 Thu l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top