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 人工の光と光の隙間。その薄闇の中で、二人が出会ったことを、他に知る者はいない。
 少年は、少女を凝視した。ニット帽を深く被り、その顔はきっと俯いている。暗赤色のコート、黒いマフラー。そして長い髪。彼は、少女のそれらを順に認識していった。
 少年は、それが果たして人間なのか、それとも幽霊であるのか、解釈に苦しんだ。
 (これは、話しかけるべきなんだろうか……)
 しかし彼が呼吸を思い出す前に、少女が動く。ゆらりと持ち上げられた顔。前髪の隙間から覗く瞳に、少年は一歩後退した。全身が冷えきっているのを感じる。
 「君、誰?」
 そう言ったのは、少女の方だ。ピアノ線を弾くような、張りつめて、繊細な声。
 少年はたじろいだ。自分に向けられたはずの問いかけなのに、答えていいものなのかが分からなかった。だが、黙っていてもしかたないことに、やがて少年は気付く。
 「べ、別に」
 でも名乗りたくなかった。名前を知られて、あとをつけ回されても困るのだ。
 少女は少しキョトンとして、それから、人形のような顔を歪ませた。少年には見えにくかったが、たぶんそれは、微笑みの形だった。
 するとそれを感じ取った少年の心には、少しだけ余裕が戻ってくる。さて、どうしたものか。
 「どうしたの?」
 一瞬思考を巡らせてから少年が放ったのは、そのような質問だった。具体的に何か尋ねて、「あなたを祟りに来た」とか「ずっと憑いていたの」とか、そんな具体的に恐ろしい回答をされても嫌だなと、思った結果だった。
 「お散歩していたの」
 一方少女の返答は、あまりにあっさりとしていた。それはあっさりし過ぎて、意表を突かれた少年が、うっかり「あ、俺もだ」と共鳴してしまうほどのものだった。
 意図せず口走ってしまったことに、焦る少年。それを見て、少女はクスリと笑うのだった。
 「ねぇ、なら一緒に、お散歩しない?」
 少年は予想外の言葉に「え」と声を漏らす。しかしその後の彼の返事を待たずして、少女は彼の手を引いた。
 「こっちだよ。行こう?」
 少年は当然戸惑った。それでも、結局、彼の足はワンテンポ遅れて少女の斜め後ろに踏み出し始める。
 その瞬間に、達観したといっても過言ではない。どうせ最初から行くあてなんて、少年にはなかったのだ。たとえ彼女が彼を三途の川へいざなおうとしていたのだとしても、それが少年に示された道なのであれば辿らざるを得ないだろう。そんな気が、少年にはしたのだった。
 「いいよ、ちゃんと付いて行くから。手、掴んでいたら邪魔だろう?」
 そう言って、少年は少女の手を解く。手袋をしていない彼女の手は、少年と同じように、とても冷たかった。

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2011.12.04 Sun l 幽霊と少年(完結) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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