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 「星の国から降りて来たの。あの珈琲屋のマスター、このあいだ死んじゃったんだ。それで、もうすぐ四十九日だから、それを過ぎたら、マスターを連れて星の国に帰ろうと思っていたの。だから、あれは思い出巡り。マスターの代理でね」
 彼女は言葉を選びながらそのように述べていた。だが、ゆっくりとした口調だったにもかかわらず、少年は言葉を呑み込みきれなくて、しばらく口を半開きにするのだった。
 ようやく全てが喉を通ると、少年は自分の間抜け面に気付き、慌てて誤魔化そうと曖昧な笑みを作った。しかし少女は彼を見つめ続ける。「何かコメントをくれ」という心の声を、彼は聞いたような気がした。
 「君は……死神?」
 戸惑いながら少年がそう言うと、彼女は破顔してから「幽霊だってば」と訂正した。
 「実は私もね、生きていた頃に、よくマスターのお世話になったんだ。だから、そう、私は幽霊の代表なの。ねぇ、信じてくれるかな……?」

 しばらくの沈黙を置いてから、少年は口を開いた。
 「……わかった、信じる」
 すると少女はほっとしたように息を吐き、しゃがみ込みながら優しく「ありがとう」と言う。彼はそれを見て、ぎこちなく微笑みを返す。
 正直なところ、彼女の説明が真実だとは、少年には思えなかった。考えれば考えるほど、どんどん現実感が逃げて行ってしまうのだ。いっそそんな説明などなしに、曖昧にされていた方が、少年には不気味に感じられていたかもしれない。
 (っていうか、星の国って、なんだよ)
 しかし、それでも敢えて、少年は信じることにしたのだった。
 それで良いだろう。それを許してくれるのが、夜なんじゃないか。そう、少年は思うのだ。
 俺がこうして自然に会話ができたのも、きっと夜のおかげだろう。なら、そこから一歩進んで、夜が彼女を幽霊にしたのだと思えばいい。相手が幽霊だったから、俺は自然に会話をすることができたのだ、と。
 (そんなトンデモ理論だって、夜なら、許されるんだ)
 我ながら都合よく考えるな、と少年はさらにニヤけながら思う。
 一息ついたかと思うと、少女は再び立ち上がった。そして白い息を浮かべながら、「寒いから帰る」なんて言い始める。そんなリアルな挙動に、少年はいささかの苦笑を禁じ得ない。
 「ねぇ、君は明日も、散歩に行くの?」
 少女は少年に問うた。
 「うん、まぁたぶん、暇だし」
 少年は逡巡しているさまを装いながら答える。でも本当は、考えるまでもなかった。少年はいつも夜にしか活動しないし、その時間も、たいていは暇つぶしにしか使っていなかったのだ。
 すると少女は、ややためらいを見せてから、彼に提案するのだった。
 「じゃあ、明日も、一緒にここでお喋りしない?」
 悪戯を企んでいるかのような彼女の口調に不安が隠されていたことを、少年は知らない。しかしそれに気付かなくとも、彼が提案を了承しない理由は、なかった。

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2011.12.05 Mon l 幽霊と少年(完結) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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