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「つまりはセンセーショナルな事象に、興味がないんだ」
僕はそう言って、傍らの林檎を一個手に取った。
「じゃあその林檎が放射能にまみれていても、君は食うのか」
彼は挑むような視線を僕に向けて言った。
僕は苦笑しながら、シャリッという音を立てて林檎をかじる。
「訂正しよう。センセーションに疎いんだ。それだけさ」
彼も僕を睨んだまま、林檎をかじる。
「協調性に欠けるんだな」
「まぁ、流行にはよく乗り遅れるよ」
「でも君は、事物の浮き沈みについて、何とも思わないのか」
「浮き沈み自体は意識下に置くよ。でも、静観以上はしない」
「それはエゴだ。自分だけ他人面しようとしやがって」
「他人事じゃないか。趣味みたいな賛同は意味がない」
「そう言って、自分の無力から目をそむけている」
「静観している、と言ってくれ。達観にはまだ早いけどな」
「事象を自分のこととして見ていないことには変わらない」
「皆が注目するような事象って、そんなに重要なのか?」
「そういうのには潜在的に大きな課題が存在するもんなんだよ」
「皆の注目が、課題を過大に見せているだけとは違うのか」
「そうだとしても、あえて注目しないことの理由にはなるまい」
「いや、過大な課題を意識しすぎると視野が狭くなる」
「事象を見ないことが『視野が広い』ことに成りうるのか」
「一歩引くことが『見ない』ことにはならないだろう」
「だが『見てるだけ』という行為は虚無だ。無視にも等しかろう」
「黙殺を決め込んでいるわけではないよ」
「では静観してどうするつもりなのか」
「今自分が何をすべきなのか。それを吟味する際に使う」
「事象が見せる像の大きさにとらわれずに、か?」
「そうだ。最も身近にある課題が最優先だ」
「エゴだな。しかしまあいい。なら俺は君に言いたいことがある」
「なに」
「今、君のすぐそばに大変困っている人物がいる」
「で?」
「彼は恋人との待ち合わせに間に合わなさそうで焦っている」
「ぐ、貴様……」
「君には恋人がいない。そして昼飯も食った。このリンゴだ」
「で」
「君は暇だ。そして課題が出来た。それはこの不幸な隣人を――」
「黙れ。僕はキリスト教徒でなない」
「ならば普遍的な言葉で君を奮い立たせてあげよう」
「何だ」
「その林檎、俺のなんだ。ギヴ・アンド・テイク」
僕は……。
僕は負けた。
「じゃ、午後のシフト、頼んだぞ。たこ焼きこがすなよ☆」
大学祭初日の研究室露店。
その昼休みが、間もなく終わろうとしていた。
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2011.12.05 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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