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 翌日は、午前二時に公民館の屋根の上で待ち合わせることになった。
 夜が来ると少年は再び幽霊少女に会えるのか、やや不安になってきて早めに家を出た。道を確かめつつ、歩いて約四十分。目的地には約束の十分前に到着し、彼は町を見おろして少女を待っていた。一方の少女はまもなくやって来て、二時五分前に梯子から顔を出すのだった。
 「早いね」
 「別に。暇だったからさ」
 目を逸らした少年が言い訳がましく言うと、少女は悪戯っぽく笑う。
 少年は胡坐をかいて屋根の端に座っていた。その横にちょこちょことやって来て、ニット帽に黒いマフラー、赤いコート姿の少女は、足を投げ出しながら腰を下ろす。
 「幽霊も寒いの?」
 少年は少女の装着して来た手袋を見、からかいのつもりで聞いた。だが少女は一枚上手だ。
 「幽霊のイメージ力は侮れないよ。寒いの、私嫌いじゃないし」
 (寒いと思ったら寒く感じることができる、ってことか)
 やられたなぁ、と少年は苦笑した。
 「まぁ、俺も冬は嫌いじゃないな」
 「そうなの?一緒だ」
 いっしょいっしょ、と無邪気な少女。
 その姿に対して少年が抱くデジャヴュは、やはり薄れない。 彼女はマスターの知り合いらしいから、あるいは店で会ったのかも知れないな、と少年は考える。しかし、どれだけ思い出そうとしても、歳の近い女の子とあそこで会ったような記憶は、出てこなかった。
 「そういえば、お前って何歳なの?」
 少年がそう尋ねると、少女は「十四歳」と答える。
 それに対して少年が「ああ、そしたら俺のひとつ下か」とコメントすると、彼女は微笑みながら「じゃあやっぱり、お兄ちゃんなんだね」と言った。その言葉に少年が反応する前に、彼女は自分のニット帽を頭から外し、初めてその素顔をはっきりと目撃した少年は、急に横を向くのが恥ずかしくなった。
 「その、静電気も、幽霊のくせに好きなのかよ」
 明後日の方角を向きながら、少年が彼女の頭部に指をさす。指摘された少女は恥ずかしそうに跳ねた髪の毛を撫でつけながら、「ドアでぱちぱちするのは楽しいよ」と言っていた。

 少年にとっても、幽霊少女との「お喋り」は苦ではなかった。それでも、一時間くらい経っただろうか。ずっと動かずにいると、さすがに二人とも凍えそうになってしまう。
 「手の感覚、なくなってきた」
 耐えきれなくなった少年が根を上げた。一方の少女もやせ我慢だったようで、「ふふふ、私の勝ち」と謎の勝利宣言をしながら立ち上がる。
 「ねぇ、明日も……」
 そして言い淀む少女に、彼は少し迷ってから、そっと手を差し伸べるのだった。
 「……暇だよ、俺」
 赤いトタンは星空を微かに照り返し、嬉しさの隠しきれない少女を、静かに映していた。

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2011.12.06 Tue l 幽霊と少年(完結) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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