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 俺は酔っぱらっていた。帰り道、ふと見れば大豆の貯蔵倉庫のシャッターが開いていたので、俺は踊りながらそこに入った。収穫期を終えた大豆は袋に詰められ、倉庫の中にうずたかく積まれている。ふと事務用の机を見ると、爺さんが袋を運ぶ時に手に持っていた鉤爪が目に入り、俺は急にこれを使って大豆の山に登りたくなった。

 ザクッ、ザクッと袋に爪を立ててよじ登る。しかし2mも行かないうちに、バリバリという音を立てて俺は落ちた。袋が破れたのだ。凄まじい勢いで降ってくる大豆を浴び、俺はしばらく呆然としたが、すぐに恐ろしくなって逃げ出した。

 翌日は恐る恐る役場に出勤したが、倉庫のことは事件として話題になっていなかったので、俺は安心して仕事に取り掛かれた。

 しかし休憩に入り伸びをすると、「尾崎君、今何か落ちたよ」と係長に声を掛けられた。

 「ほら、大豆か?」

 俺はぎょっとした。どこに紛れていたのだろう。「あれ、なんでだろう」と笑ってごまかしながら、渡された3粒の大豆を凝視する。それが異変の始まりだった。

 次の日から、発見される大豆の量は増えていった。俺が歩いた後で、課長が拾う。ふと気がつけば、事務の女が持ってきた茶に入っている。俺は怖かった。

 居睡から起こされると、同期が「おい、なんの悪戯だよ」と言って床を指さす。見ると、俺の椅子の下にはジャラジャラと大豆が大量に転がっていた。唖然として周りを見渡せば、職員が全員こちらを見ながら声をひそめている。

 俺は気持ちが悪くなって早退した。トイレで吐くと、嘔吐物に大豆が混ざっているような気がして、吐き気は止まらない。

 それから一週間、俺は職場に行かなかった。大豆の原因が判明したのだ。頭を掻くと、ポロリと大豆が落ちてきた。もっと掻きむしると、ぼろぼろぼろと落ちてきた。あの大豆は、俺のフケだったのだ。怖くて風呂にも入れなくなった。

 留守番電話に職場から「もう来なくていいよ」とメッセージが入っていたので、俺は実家に帰ることにした。実家に到着すると、母は温かく迎えてくれた。「一年も勤めてないのに、情けないよなぁ」と言えば、「疲れちゃったのよ」と慰めてくれるその優しさが、心にしみてくる。

 これで俺、悪夢から逃げられたのかなぁ。

 許されるのかなぁ?

 不意に母は顔を歪めて鼻を鳴らし、それから呆れたように笑って言った。

 「あんた、風呂に入ってないでしょ。その頭、納豆臭いわよ」

 俺はもう、駄目かもしれない。
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2011.11.10 Thu l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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