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 少年は、晴れ渡る夜空を見上げ、丘の上の公民館の、トタン屋根の上で胡坐をかいていた。
 あれから丸一年と数か月。星模様も、ずいぶんと変わって来た。夜明けと共に、きっともうすぐ、また春が巡ってくるのだろう。
 「ねぇ、そろそろたくさん、新しい星座、出てきてるだろう?」
 彼は、傍らで足を投げ出しながら座っている、赤いコートの少女に呼び掛ける。
 「また、新しい星座の名前、教えてよ」
 だが、彼女は応えてくれない。
 つれないなぁ、と苦笑いを浮かべて、少年はゆっくりと立ち上がる。
 あの日以降、ずっとこの調子なのだ。救急車の中でも、病室の中でも、治療室の中でさえ、少年はいつも少女のそばにいたのに、少女はもう、彼を見て微笑むことはなかった。
 「でも、今日は思い出して来てくれたんだよな。ありがとう、な」
 さらさらとした風が吹き抜けた。それに気持ちを乗せたつもりで、少年はそっと少女の頭を、ニット帽の上から撫でてやる。
 季節が一周する間に、ほとんどのやけどは回復し、胃の中に沈着した風邪薬も洗浄されて、彼女は徐々に元気になった。退院してからもしばらく学校は休んでいたが、結局また、通い始めたらしい。もう張り合いようのないことだが、負けたな、と、少年は思わないでもない。
 「ついに、同い年になっちゃったよな」
 彼は語りかける。
 「追い越される前に、俺は星の国に行くから、ついて来るんじゃねぇぞ」
 少女は何も言わず、水平線を眺めている。
 「マスターと一緒に、お前がちゃんとやってるか、監視してやるから。なぁ」
 大きな流れ星がひとつ、流れたのに気付いて、二人は同時に息を飲んだ。
 それから少年は、少女に笑いかける。
 「どうせ生きてるんだから、ちゃんと生きろよ」
 そっと顔を近づけて、少女の頬に口づけをした。心には、なんだかすきま風が吹いている。それが寂しいからなのか、自分が消えかけているからなのかは、少年には分からない。
 そして、顔を離し目を開けた少年が「あーあ」と呆れ声を出すのと、鼻をすすった少女が「なみだ」と呟くのは、同時だった。
 「せーぞーき」
 少女がそう言った途端、その目からは、大粒の涙がぽろぽろと零れ出す。

 それを拭おうとする少年がいたことを、知る者はいない。

(Fin)


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2011.12.08 Thu l 幽霊と少年(完結) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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