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 私には分かっている。たぶん今後ろを振り返ったら、和美が笑っているだろう。その気配に気づくのが先だったから、敢えて躊躇なくロッカーを開けた。中からはどうしようもなく血生臭い香りが漂ってくる。でも覗いたりはしない。いつものように、外靴が置いてあるはずの場所へ手を伸ばす。すると案の定、柔らかくぬるぬるとした何かを掴んでしまった。悲鳴を上げ、驚いたふりをして腕を引けば、掌にはべったりと血が付いている。そしてボテッと床に落ちたのは、子ウサギの屍骸。
 「あれー公ちゃん、なに汚いことしてるの?お掃除頑張ってねー」
バシン背中を叩かれて私は振り向き、笑いながら去っていく和美とその取り巻きを眺めていた。
 あんたも、よく頑張るよね。
 私はためいきをつく。ついにここまで来たか、という声が後を追って自然に出てきた。それから足元に転がる子ウサギを拾い上げると、一度ロッカーの中に入れてから私は血糊の掃除を始める。
 いつから始まったのかは、授業ノートを確認すればすぐに分かる。和美の行動は、まず私のノートをビリビリに破いてトイレに投げ込むことから始まったからだ。カバンの中に入っている新品のノートは、もう何冊目になるだろう。
 不意にくじけそうになる気持ちを抑え、無理やり腕を振ると、子ウサギの入ったビニール袋がカサカサと音を立てる。目の前に持ち上げると、子ウサギの眠るような体躯が真っ赤な夕日に照らされて、私はそれを純粋に美しいと感じた。
 ねぇ和美、どうして子ウサギを殺してしまったの?駄目だよ。
 静かに、子ウサギのために泣いた。
 本当に、美しかったのだ。
 スーパーに入ると、気づいた人はみんな顔をしかめた。店員さんにも注意されたけど、私は気にしなかった。夕飯に全て必要なんです。そう言い続けて。
 今週は、私の家には誰もいないから何でもやり放題。私はご飯を頬張りながら、あの光景を思い出す。ロッカーの中についた血は多すぎて、結局すべてを拭うことが出来なかった。でもそれだけ酷い頃仕方だったおかげで、血抜きは案外よくできているようだ。深夜までかかってしまいはしたけれど、やっぱり、やってよかった。柔らかくて、美味しい。ねぇ和美、知ってる?この子ウサギ、美味しいんだよ。私の体と一つになって、あなたが殺した子ウサギは、私の中で生き続けるんだよ。
 でもきっと、分からないだろうな。
 あとで、可愛いお墓、作ってあげるからね。
 私は子ウサギの臓物に微笑む。


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※指の運動シリーズ
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2011.12.15 Thu l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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