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 「ねぇ、どうして歌手が歌歌いの歌を歌ったり、小説家が小説家の小説を書いたりするの?」
 夕食を食べ終えた後だった。妻は僕に言った。僕は注意を向けずにぼんやりとしていたのだが、テレビには、感動もののドキュメンタリー番組が映し出されていたらしい。
 「一番身近な題材だからじゃないのか」
 番組の内容は知らないが、おそらく彼女の質問に応答する上では、特に知る必要もないだろう。故に僕は思うままを答えた。しかし妻は顔を曇らせたまま、僕を見て何か訴えている。
 「それじゃあ、なんか不満?」
 「だって、ずるいじゃない」
 その言葉が意味するところは「僻み」というものだろう。しかし何故なのか、いまいち解せない。彼女の作った夕食は今日も文句なしに美味しかったし、それを食べる前に僕は自分の弁当箱も洗った。毎朝遅刻せずに出社しているし、妻に溜め事を作らせているつもりもない。生活の中で妻がとかに対して僻む要素はほとんどないように、僕には思われるのだ。ただ一つあるとすれば、それは最近、彼女の不妊症が発覚したくらいだろうか。
 「みんな、夢を見ているのよ。マイクやペンを手にした彼らは、自分が追いたかった夢の中枢を、一番近しい手段で描いているにすぎないわ。そんなの、美しいに決まっているじゃない」
 それが彼女の言い分だった。妻から視線を外してコップを覗くと、烏龍茶の水面に油が少し浮いている。僕はティッシュを一枚とって念入りに口を拭い、それからもう一度妻を見た。
 「それでいいじゃないか。美しいんだもの」
 なるべく優しく、彼女の本音を引き出すように。
 すると妻は悔しそうに首を振る。
 「でもだめ。だって閉鎖的だもの。自己満足よ。そんなの」
 直感が僕を苦笑させた。それから妻の隣に座りなおし、彼女の目から涙がこぼれる前に、彼女の頬を撫でてみる。案の定、少し火照っていた。
 「夢を生み出せるのなら、目を背けないでって、私は……」
 「そうだね」
 彼らは夢の単為生殖ができる。そう思えば確かに、彼らは僻まれても仕方ないのかもしれない。そして次の言葉が、僕の心の中からは自然と浮かび上がって来るのだった。
 「僕らが閉じない方法、探そうね」
 僕の抱いた華奢な肩は小さく震えている。女という生き物は一体どうして、こんなに泣くことができるのだろう。何度も越えた夜だ。明日が来るまでに、僕らは答えを見いだせるのだろうか。
 ふざけたエンタメ番組をリモコンで消してやれば、沈黙が降りてきた。


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っていうか1000文字小説って全部指の運動だった。忘れてた。
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2011.12.16 Fri l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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