FC2ブログ
 「またかよ畜生」
 剛志はついにラジオを乱暴に掴むと台所の向こうへ放り投げた。ちょうど十三曲目のクリスマスソングがかかり始めたところだ。しかし賑やかなムードはプラスチックの割れる音と共に一転、通夜のような静けさが部屋を訪れる。動く隙はない。
 「どうしてこの時期になるとどこもかしこもクリスマスクリスマスと騒ぎ立てやがって畜生」
 「大人になれよ剛志」
 そう宥めるような声で言ったのは義男だった。
 「どんなに素晴らしいクリスマスソングも、この時期にしかかかることができないんだよ。年に一度のチャンスじゃないか。寛容になろうぜ」
 特大のフライドチキンとふわふわのケーキとポテトサラダが無駄にきらきら輝いているテーブルを、剛志はドンと拳でたたく。やはり、動く隙はない。
 「俺たちみたいな連中が聞いても意味ねぇじゃねぇか畜生」
 傷を舐め合う男たちほど、惨めなものはない。しかしそれ以外にこの夜を越える手段がない以上、受け入れるしかないのである。だが悔しくて敵わない。その言い分に、共感を覚えない者はおそらくいないだろう。
 「でもな」
 そう言いながら彼の肩を叩いたのは和喜だった。
 「俺たちだからこそ聞いてやれるんだよ。いちゃいちゃしてる奴らを見てみろよ。自分たちの幸福しか見えてない。クリスマスソングなんてものは、ヤツらにとっては引き立て役でしかないんだ。でもそれじゃぁ、今しか流れる事ができないのに、それ自体のよさを評価してくれないクリスマスソングたちが可哀相過ぎるじゃないか。俺らだけなんだよ。盲目じゃないのは」
 そんなことを目的とした集まりであるということは全くなかったが、その主張には誰もがしんみりとうなずくのだった。今なら、動けるだろうか。しかし智也が口を開く。
 「でもまぁ、ラジオ壊れちゃったし、俺のアイポッドかけようか。正月フォルダが火を噴くぜイエェェェエ!」
 すると俄然狂ったように踊り出す一同。クリスマス会場はあっという間に大晦日の前祝会場と化していた。
 なんと調子の良い連中なのか。剛志も涙をぬぐってチキンを噛み千切りながら阿波踊りに加わっている。しかし、そうやって思い出は作られていくのだろう。やがて近所から苦情がこようとも、その光景は微笑ましさ以外のなにものでもない。
 そう、それが青春なのである。彼らに罪は無い。
 ノックするタイミングを掴めないままベランダの外側で佇んでいるサンタ姿の僕に気付かなくとも、彼らに罪は無い。


----------------------------------

※僕「食べたいな、あのフライドチキン」
そういう話である。
スポンサーサイト



2011.12.16 Fri l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://kirinonarahito.blog.fc2.com/tb.php/189-35dd2216
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)