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 よっしーの口が裂けた。
 正確には、らしい、という話を聞いただけだったのだが、僕は笑が止まらなくなり、それからて汗が噴き出して、すぐに彼女の電話番号を押した。しかしすぐにハッとして携帯電話を閉じ、メールに切り替えた。つまりはそれだけ慌てたのである。
『だいじょぶだいじょぶ、気にせんといて』
 返って来た文面は、いつものようにお転婆に笑っているようだった。しかし現実は笑うことすら、きっとできていないのだろう。のんきにベッドでエロ本なんか見ている場合ではなかった。それ以上「だいじょぶ」を乱用されてもじれったくなるだけなので、僕はすぐさま立ち上がる。
 よっしーは彼女が住む賃貸マンションの下まで来てくれた。容姿とかオーラとかよりも先に、僕は大きなマスクで彼女を生々しく認識する。
「体張ってネタ作りするのも大概にしろよな。ほら」
 僕は見舞品を入れたビニール袋を差し出した。憎まれ口でも叩かなければやっていられない。
「ありがとう。見ていい?」
 柄にもなく、よっしーは弱弱しく微笑む。僕はどうにかして彼女が相対的に幸福になる方法がないかを考えて、結局何をするでもなく「いいよ」と言った。
 中から出てくるのはコラーゲン配合の飲むゼリー、ビタミン配合の飲むゼリー、それと完治後のお楽しみのつもりで、ちょっと賞味期限の長いどら焼き。
「嬉しい」
 己の恥を忍んで言えば、よっしーは可愛い。性格も、笑顔も。けど僕の手は、ジャンバーのポケットからスッと出して彼女の頭を撫で始める、なんていうことはなかった。
「それじゃ思い切り笑えないよな。早く治せよ」
 それが僕の、精一杯の優しさだった。
 別れる頃には手汗も引いて、僕は冷静になる。それでも、せめて星が見たいと思った。
 彼女の転んだ場所は、彼氏の家の前だったそうだ。だから、病院に行くのも早かった。たぶん寂しくも、なかっただろう。僕はそのことを素直に「良かった」と思わなければならない。
 僕は寒空を見上げながら家路をたどる。
 僕が願うまでもなく、彼女はおそらく僕よりは、相対的に幸福だろう。ならば少しだけおすそ分けをもらっても、罰は当たるまい。そんな屁理屈を立てながら、何度も何度も、僕はよっしーの「嬉しい」という声を反芻していた。それから何度も、「早く治せよ」と空に浮かべる。
 傷は確実にふさがる。それでも僕は繰り返すのである。それで誰が救われるわけでもないことだって知っている。それでも、だからこそ、


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※煮え切らないのは8割が実話な所為。
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2011.12.19 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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