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 第111回の投稿作品は当サイトの1000文字小説#72「平野さんに対するデート招致についての結果報告(松井 H23)」にもアップしています。
 解説は完全なるネタバレなので、読みたい方は追記からどうぞ。

 ちなみに、第112回に私が投稿した作品はけっこうメッセージ性が強いために胸やけをする方がいるかもしれません。
 それだけ言っておきます。
 他者の作品も乞うご期待のこと。

 はてさて。

 本作は一見して分かる通り、「論文」という文学とは異質の形式を利用した作りになっています。
 論文(+添削)の内容は要するに、松井君が平野さんをデートに誘い、失敗しまくり、内村先生に「それ絶対平野さんに恋人いるだろう」と突っ込まれる、というもので、それ自体には捻りがありません。
 なぜそんな単純なものを作ったのか、と言われると、一つは「難しく考えるのが面倒だったから」というありきたりなものなのですが、もう一つ言い訳するなら「物語の本質は論文の筋の外にあり、実験的試みのため、題材はある程度分かりやすいものにする必要があった」と私は答えたいです。
 ってつまりどういうことなのか。

 もっとも言及しておきたいのは、「この物語の主人公は一体誰なのか」ということ。
 実は主人公は松井とは限りません。
 むしろ私としては、内村を推します。(笑)

 物語は論文の中で語られます。
 その筆者はもちろん松井なのですが(指導教官による記述もあるが)、ここでは論文の特性として存在する、「引用表記」というものに着目してみましょう。
 字数の関係で本作では年号を用いていますが、普通の論文には(田中 2008)などといったように西暦を用いて、「この年にこの人が発表した論文の内容をここで参考にしているよ」という表記が多分になされています。
 で、実を言えば、論文形式にした最大の理由はこの「引用表記」を利用したかったからなんです。
 松井の論述の中ではたくさん「内村」の字が出てきます。
 その引用表記が差している記述と照らし合わせてみてみると、内村は過去に幾多の失恋と精神の鍛錬を繰り返していることが理解されます。
 その結果として、最終段落で発覚する「今の内村は指導教官として活躍しているよ」というのが物語の最大のオチになっているわけです。
 スムーズに笑えた人はたぶん理系、意味が分からなかった人はたぶん文系、物足りなかった人は頭の良い人です。(理系的な論文に慣れているかどうか、という意味で)
 ちなみに内村先生も優秀な「恋愛研究者」というわけではありません。
 それは次のような論述から見て取られるように思います。

“これについては高橋(H9)が次のように指摘した法則性の例外を参考にされたい。すなわち、「対象女性に特定の恋人が存在している場合、招致回数-招致成功率の相関関数における係数は0となる」。この指摘を支持している報告は非常に多い(内村 H8、他)”

 指摘したのは高橋(H9)、でも内村はH8に同様の結果を得ていた、ということがここから理解されます。
 このことから考えられるのは、「内村は高橋が指摘したことを明言できなかった」という無能さです。
 憐れ内村。「現実を見なさい」と追伸で述べたのはおそらく先輩としての松井への優しさの顕れでしょうが、自分に対するもの凄い皮肉でもあります。

 また、もともと論文は無機質な面があるため情景描写的なものは皆無ですが、その代わり、もう少し読み取れる「他者の人生」というものがあります。
 まずは言わずもがな、松井。
 本質はどうであれ、物語の骨格は彼によって書かれた論文です。
 その中で、彼はデートに断られるというだけで平野さんを「デートへのお誘いについては全面的棄却を一般的対応とし、上記の法則性を超越した女性であると考えられる」などと妄言しています。
 内村の指摘がなければ、彼はきっと取り返しのつかない事になっていたでしょう。
 もう一人、引用表記で二回出てくる戸川君についてもその挙動を追うことができます。
 すなわち「何回か平野さんにアタックしたけどダメだったから諦めて、違う女性に対して内容とシチュエーションを工夫してのデート招致をしたら成功した」という一連の流れ。
 まぁいずれにせよ、みんなバイタリティありすぎですよね。

 そんな感じで、今回の作品は複数の人物の物語を混ぜ込んだ実験的ギミック作品だったわけでした。
 いやぁまた書きたいね。楽しかったし。
 ほんとうに、うまい読み方をしていただいた方からの感想には感激いたしました。
 ありがとうございました。
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2012.01.09 Mon l 短編(サイト)関連 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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