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風を引いたので、病床から。

頭の中にある冒険系のファイタジーをちょっとだけ文にしてみました。

余裕があれば続き書くかも。

追記から読めるんで、どーぞ。



 鏡がなかったから、その老人が、少年の見た最後の村人だった。

 深い森に囲まれた、小さな集落では、少年が生まれる前に病が流行っていた。次々に人々は死んでいき、治療も予防の方法も見つからず、それでも誇り高き村人たちは、外界に救いを求めようとはしなかったのだという。

 人間が消えていくことで、やがて病は自然と終息を見た。しかし後に残ったのはもはや集落の名残にすぎず、奇跡的に健康のまま取り残された老人と少年が、その残り香の中を生きていた。

 少年が齢12を数える頃に歩けなくなった老人は、その頃から幾度となく、そんな村の昔話を少年に話し聞かせるのだった。森から調達した食べ物と、質素な住居の裏にある小さな畑から取った穀物を使い、温かなスープを作りながら、少年は老人の言葉に耳を傾ける。一方、少年が成長していく様を、老人は幸せそうな目で、その濁りきった目で、ボロボロのベットに横たわりながら見守り続けていた。そう、その日まで。

 その日――それは予期していたことだったのだろう。最後の夕飯を終えた時だ。世にも穏やかな笑みを浮かべて、いつもの昔話の後に老人は、少年へ、こう告げた。

「――しかし時はまもなく満ちる。お前は、この地を出ていくのだ」と。

 少年もまた、老人の心を知っていた。その少し前から老人は、自身の気に入っている場所を指定して、そこに穴をほっておいて欲しいと、少年に要望していたのだ。だから少年も、穏やかに微笑んで、頷くのだった。その翌日、老人は目覚めることを忘れた。

 そして、少年は旅人になった。
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2012.02.10 Fri l 旅人(ファンタジー・暫定) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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