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 男、あの子と喧嘩をしけり。原因は、あの子にあらむとおぼゆ。
 今朝の膳を食す折にて、男、眼前に魚を見けり。真っ黒に焦げた魚の骸なりけり。
「おい、この魚食えねぇじゃねぇかよ」
「仕方ないでしょ?二匹とも焦げちゃったんだもの」
「『仕方ない』ってなんだよ。仕方ないから癌になれってか?」
「ちょっと、馬鹿なこと言わないでくれる?それでもあなたにはマシなほうあげたつもりよ。ほら見て、私の。もう魚の形じゃない――」
「そういう問題じゃねぇよ。どうせまた、焼く手間を面倒臭がって適当に済ましやがったんだろう。いつまでも怠けた生き方してたらそのうち体重とかもK点越えするんだからな」
「うるさいなぁ、何が言いたいのよもう!」
「ちゃんとした焼き魚、もう一回焼けよブス!」
 やがて端正たる顔を歪めけるあの子、ひとたび男を睨むを以って、木造の古いアパートから飛び出しにけり。

 俺は錆だらけの記憶から戯れに助動詞を引っ張り出しながら、冷めた味噌汁に手をつけるわけでもなく膳の前に座ったままでいた。なんていうかこう、痴話喧嘩に近い話を現代語で振り返るのは恥ずかしいのである。
 日曜だったから余裕があって、三回くらいうたた寝をしてから俺は立ち上がる。ズボンをはき、上着を羽織って、魚の骸を一つの皿に纏めると、俺は徒に鼻歌を歌いつつ表に出た。裏手に回り、放置された漬物石に座って、呑気な空の雲を眺める。間もなく猫が三匹来る。
「ほら、食ってやってくれよ」
 皿を差し出すと、猫たちは皆目を不審げに細めてしまう。期待したのに、残念だよ君。そんなことを言いたげな顔。
「やっぱ食えないよなぁ。俺、間違ってないよなぁ……」
 ふと視線をそらせると、こちらに首を曲げて咲くたんぽぽが眩しく、反射してきた「そういう問題じゃねぇよ」という言葉に、俺はぬるいため息を吐いて応えた。

「だって寂しいかったんだもん。スーパーしか行く場所、思いつかなかったし……」
 ものの三時間で帰って来しあの子、思う所を問へば、そのやうな事をむくれっ面で言ふ。
 我、作っておけるプリンを差し出せば、あの子、一瞬顔から光を放ち、やがて不自然に不機嫌なるがごとき声を出す。
「お昼ごはんも焼き魚だから。文句はないでしょ?」
 我、あの子の手が握るビニール袋を見て苦笑。
 あな、いとほし。
「よしよし」
「がるる!」
 笑いながら頭を撫でるや、あの子は犬歯をむき出して、我が右腕に噛みつけり。


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※これがやりたかっただけですシリーズ。がるる!
ちなみに「寂しがるる」っていう古語はない笑。
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2012.02.20 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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