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 小洒落た音楽は、むしろいっそう私を苛立たせた。

 彼の「もしも」を、私は嫌う。「仮定された未来」の話は寂しすぎて、私はつい「今を見て」なんて言ってしまう。今ここにある現実以外に、私が求めていることはなかった。それだけ子供みたいに主張する私を、彼は父親のようにあやすから、私は余計に悔しくて泣く。彼の言うことを理解はできる。できるけれど、納得してしまいたくはない。

 彼の理屈っぽいところは嫌い。論理に縛られた彼の言葉は、容赦なく私を責め立てるようで、私はいつも耳を塞ぎたくなる。私の悲鳴も、彼の理屈には届かない。追いつめられた末に逃げ出すのは、自分でも情けないと思う。その情けなさを、私は怒ることで必死にごまかしている。

 空々しい木枯らしが、私をどこかに追い立てる。なぜ彼はあんなに余裕のありそうな顔で、私と向き合えるのだろう。ふとお金を払わずに出てきてしまったことを思い出して、自分の馬鹿らしさにも嫌気がさしてくる。頭がかたいのは、どちらのほうなのだろう。

 夜の雨はしとしとと、私たちの部屋を包み込んでいた。

 どんなに暴れても、彼は抱きしめてくれるから、きっと、とても優しい人なのだ。でも、何度「愛してる?」と聞いても、答えをはぐらかすのは狡い。一晩の安心を得ることすら許してくれない彼が憎くて憎くて、今日も私は、泣きながら眠りについた。彼の気持ちを私は知っている。だから余計に、彼の温かさが寂しい。どんなに気持ちを求めても、きっと結論は、変わらないのだろうから。

 華やかな送別会が開かれて、彼は主人公にされた。

 私は脇役だから、こんな会は私にとって何の意味もなさない。ただただ私はいつものように、泣きながら彼の悪口を言う。周りは同情してくれたり、説得してくれようとしたり、私に善くしてくれるけど、私は彼のことしか頭にないから、隣にいるのが誰なのかもわかっていない。そうやって誰彼構わず巻き込んでいる私を、彼は遠くから見守っているのだろうか。見守っていてほしいと、思う。

 飛び立った飛行機が空に吸い込まれていくのを、私はラウンジからずっと眺めていた。彼に敵わないことは、ずっとこの先も変わらない。だから私は強がって、最後の悪あがきに笑ってみせた。それはどうやら彼に効いたらしい。初めて見せた彼の涙を、私はたぶん、忘れない。

 あの空は遠く、アフリカに続いている。彼の幸せを願ったら、私も前に進まなければと、少しだけ思えた。
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2011.11.11 Fri l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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