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 あれは逃げ水か、と視線をのばす。その先に子供が立っていた。二人だ。立ち往生をしたまま何かしている。私はゆっくりと歩いて近づいてゆく。アスファルトの照り返しが皮膚を舐め上げる。町の上空に居座っている大きな入道雲を、思えばあの子供たちくらいの歳の頃に、私はカキ氷と称して食べたがった。
 子供たちは男同士で、喧嘩をしていた。虫取り網に麦藁帽子、ではなく、二人ともツバつきのカラフルなキャップをかぶり、手は頑なにポケットに突っ込んで、何かを言い合っている。最近流行のゲームあたりだろうか、キンキンと響いてくる、この世の中心にいるかのような大声からは、何かの貸し借りで揉めているらしいことが察せられた。そのまま成り行きを聞いてみたいと思う。しかしそう簡単にはいかない。
 一人がこちらに気づき、私は睨まれる。違う、私は一人になりたかったんだ。独りなのだから、君とは関わりたいわけじゃない。額で急激に冷えた汗を拭いがてら顔を隠し、私は彼らより手前にある交差点を右に曲がる。一人旅をすれば社交的になれるらしいという噂を、私はまだ全く信じられていない。傍観を許されなかったことでむしろ子供を恨みたくなる気持ちの苦さに、私は歩み続けながら顔をしかめた。日陰が欲しかった。
 いつの間に私は子供である私を捨てたのだろうか。あの子供たちを背にしてからはそんなことばかりを考えていた。そのため大きな葉桜で日射を回避した公園のベンチを見つけた頃には、私はもうだいぶうなだれていた。力なく座ってタバコをとりだす。ベンチが砂誇りを被っているのが尻の感触で分かる。舌打ちをする元気はない。
 背後から降り注ぐ蝉時雨の中で、私はふと幼年時の幼馴染を見た。鳴いているのはクマゼミだ。私たちはよくクマゼミの首にタコ糸を括って、散歩をして遊んだのだった。幼稚園時代だったか、それとも小学校の夏休みか、放課後か、歳を取った事実は差し置いて、彼女と駆け回る思い出だけが目線の先で笑っている。
 幹のほうを振り返ると女児と目が合った。幼馴染ではなかった。どうやら桜の後ろに隠れてこちらを観察していたらしく、彼女は顔を背けて逃げていく。小さなワンピースを見送ってからベンチに置いた右手に目をやる。その横で、指で描いた兔だか熊だかが私に笑いかけていた。驚き、ほっとする反面、己自身の異物感に哀しくなる。せめて傍にいよう。私は夕立まで、そのようにしていた。

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※夏の夜を書いたあとなので、昼版。しかし主人公、だいぶくたびれている(笑)
※晴れの日のクマゼミは午後にあまり鳴かないらしい。したがって主人公は昼飯抜きで座り続けていたことになる。お疲れ様です。
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2012.08.25 Sat l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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