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 矢島は昔から妹と二人暮しをしていることで有名だった。彼の貧乏さを、幼少時代から知っている小佐野はひどく嫌っていた。ところが小佐野が大学生だったある日、矢島は彼に「金を貸してくれ」と頼んできた。小佐野は顔をしかめ、腐敗物を見たような胸焼けを感じた。だが矢島は哀願して言う。
「妹が大病で金がいるんだ。だが借りても、いつ返せるか分からない。企業には頼めない」
「生活保護は?医療扶助は?受けてないのか」
 矢島は口篭る。醜い顔だと小佐野は思った。
「駄目だ。間に合わない。保険が使えない類の、難しい手術があるんだ」
 百万欲しい。そう言われた小佐野は、起業が成功し、預金も学生ながら一千万に届こうとしていた。それを矢島は知っている。小佐野にしてみればその事実自体が精神を圧することである。しかし、……個人的に矢島を嫌ってきたが、彼の妹に対しても同じ嫌悪を押し付けるのは間違いだ、と小佐野は考え直した。小さい頃、矢島と対照的に可憐で愛らしい彼女を、遠目から好いていたことさえあった。今、その彼女が助かるか否かは自分の選択にかかっている。そう思うと、小佐野は自然に連帯保証人などの事に気がいった。
 半月ほどした頃、小佐野はあっさり元気な矢島の妹と道端で出くわした。変装をしていたが、彼女の隣には矢島がいて、確かに「お兄ちゃん」と言ったのを、小佐野は聞いたのだった。
「特別室で面会謝絶じゃなかったのかよ」
 小佐野はそう吠えて矢島を蹴り飛ばした。歪みながら飛んでいく矢島、息を呑み、しかし己の失態に気づいて土下座を始める妹、吠えて蹴り続ける小佐野。何に金を使ったのだと聞くと、「生活費……」と言う。納得いかずになお蹴れば、
「資金を、貯めてるんだ」
「貯める余裕があったら自活しろよ!テメェが好き勝手するために、俺は、俺は」
 悔し涙が落ちて矢島のどろどろとした鼻血に混ざる。妹は泣きながら謝ってばかりいる。後日小佐野は矢島に返金させた。
 矢島の妹が死んだのは、小佐野が若社長と呼ばれるようになる三十歳の時で、彼がその事実を聞いたのはそれからさらに二年後の事だった。手術に大金が必要な病にかかり、払えなかったのだ、という。
 小佐野は矢島と連絡を絶っていたことを悔やみ、大学生時代、金を矢島から奪い返した事を悔やんだ。
「偶然だよ、気にするなよ」という矢島はしかし、小佐野の「墓参りをしたい」という哀願に、決して頷く事は無かった。

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※思い付きたてほやほやを無理やり千文字に収めた荒削り感まんさい。
※tanpenに参加したいなぁと思って閃いたものだが、暗いしだるいしで引き下がってもらいました。
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2012.10.09 Tue l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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