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 木目の露わな壁の色に家具は白で統一されていて、暖かな絨毯の上、私は窓から見る風景との一体感を得る。トシちゃんは、私が吹雪に胸をときめかせる横で、手持ち無沙汰に絵などを書いていた。まだゲーム機という物が存在しない時代である。他人の家というものは、独特の匂いがし、香水を薫らせるトシちゃんの母親がどこかへいってしまうと、私はいよいよ落ち着かない気分になった。私は行儀の悪い子供であった。
「トシちゃん、盗賊ごっこやろうぜ」
「外でやるの」
「ここでやる」
「ここは僕のうちだよ」
 トシちゃんは、いつもは私と同じくらいやんちゃであるのに、それは外で遊ぶときだけで、こう吹雪いた日にはいつも不機嫌に塞ぎこむ癖があった。彼は絨毯に寝転がり、裸足をぱたぱたと振りながら黙々とクレヨンを走らせている。私はしばらく「トシちゃん、トシちゃん」と彼の周りで呼びかけ続けたが、次第に無駄である事を悟るのであった。それから一人で冒険を始めた。ストーブの炎は活火山、階段は隣国へ向かう険しい山脈。広大な新世界の中で、私はトシちゃんのために宝物を見つけ出さねばならない。
 二階の奥に閉ざされた部屋があり、曇りガラスが嵌められていたが暗く、私はその不穏さに引かれて取っ手に手をかけた。微かに中から音がし、布団の擦れるような音がしたので、それは何者かの寝息だと思われた。この中には怪物がいて、その横にはきっと宝があるに違いない。私はそっとドアノブをひねる。
 カーテンを閉ざした部屋の中、床に散らばるごみや衣服に埋もれた巨大な生き物と、私は目が合ってしまった。それは起きていたのである。体臭を感じ、息を呑んで踵を返してすぐさま逃げ出した。荒い息の音、得体の知れない不潔な風貌、ぎょろりとこちらに見開かれた目の印象が私の頭を覆い、恐怖に私は半泣きとなる。
「トシちゃん、トシちゃん、二階になんかいる」
 トシちゃんはまだ絵を描いていた。赤いチェックのシャツが翻ってこちらを向く。
「雪男だよ」
 彼が不機嫌なままそう言うと同時に、上で扉の閉まる音がする。それから私はおとなしくなった。ここは確かに彼の家であった。まもなく母親がケーキの箱を手に帰ってきて、私たちにショートケーキを与えたが、まだ一個箱には残っており、それを彼女は二階へと運んだ。その後姿を見送りながら、私はトシちゃんのシャツの裾を掴んでいた。香水の薫りが強い。私はケーキを食べなかった。

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※羞恥の感情にかかわる表現が抜けている
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2012.10.16 Tue l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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