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 エイヤァと石をひっくり返すと、うじゃうじゃと数えきれないワラジムシがいて私は歓声を上げた。私はワラジが大好きだった。つややかで、コロコロとしている姿が可愛らしくて、図鑑に折り目をつけるほど、私はそれを気に入っていた。

 一方の芳樹は、そこからミミズを拾い上げ、「こいつちぎると分裂するんだぜ」と得意げに言った。

 「可哀そうだからやめたげて」

 と私が抗議すると、

 「お前女だから、グロいの怖いんだろう」

 と素っ頓狂な声で挑発してくる。

 違う、その種類は分裂しないんだ。しかしそんなことを言えば、「また始まったよ、知ったかぶり」と茶化されるのを分かっていたから、私はムキになって彼からミミズを奪い取り、自らそれを引きちぎった。

 すると今度は「うわ、こいつミミズ殺しやがった!」と叫びながら私を罵ってきて、私は蝉時雨の中、彼に背を向け走りながら泣いた。

 翌日、私は一人でその場所に行き、無残に打ち捨てられたままのミミズを拾い上げてお墓を作った。昨日はたくさんいたワラジムシが、今日はもうほとんどいない。再び泣きたくなってしまって、私はすぐに家路を引き返す。

 空が淀んでいる帰り道の途中で、誰かに声を掛けられた。しかしそれは芳樹だったので、私は歩調を早め、無視して通り過ぎようとした。

 「昨日は、その、ほら、まてよ。おい、待てったら!」

 強引に私の腕をつかむ芳樹。振り向くと、彼のもう片方の腕には小さな水槽が抱えられていた。

 「昨日のワラジ、捕まえてやったから」

 から、の後で何を言おうとしているのかは、なんとなく察しがついた。だけど私はなんだか悔しさが込み上げ、「いらない!」とその腕を払いのけてしまった。

 ガシャンと音を立てて転がったプラスチックの水槽に、雨粒が当たる。それからどうしたらいいのか分からなくなり、私はどうしようもなく悲しくなった。芳樹も同じだったようで、私の母が迎えに来るまで、二人は水槽を挟んだまま、声をあげて泣いた。

 私たちは不器用すぎたのだ。たぶん、お互いを好いていたのだろうけど、離れ離れになってしまうまで、そうやって喧嘩ばかりをしていた。

 「お前、まだワラジムシ追いかけてたんだな」

 芳樹と再会したのは、学会の席だった。まさか彼も、生物学の道に進んでいたとは。

 「悪かったわね、ワラジ女で」

 涙声になっていく私に、「相変わらずだなぁ」と彼は呆れて笑う。良かった、変わってなくて。そんなことを言う彼が、とても憎たらしい。
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2011.11.11 Fri l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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