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 「今度のガクサイ、兄ちゃんも来てよ」

 電話越しに聞く妹の「ガクサイ」を「学際」と変換して、私は一瞬混乱した。少し大学に長く居過ぎたようである。

 「いや、遠慮。どうせお前、俺を公開処刑するつもりなんだろ」

 「いいじゃん、兄ちゃん有名だったんだから」

 奴はケロリと言い放つ。前に帰省が学園祭と被った時も、妹は顔を出せと五月蝿かった。

 私が高校のバンドで大言壮語を吐いていたのは、もう4年も前の話である。確かに知名度はあったし、卒業ライブでは予想した人数の倍以上が来た。だが、葬り去った恥ずかしい思い出も数えきれないほどある。なにより高校生の中に飛び込むなど大人気なくて、私の名誉に関わってくる。

 「今だってたまに大学の軽音部に顔出してんでしょ?」

 「まぁそうだけどさぁ」

 確かに3年次まではマイクを握って歌い続けたし、その後も大きなツラをして、私は度々部室を訪問している。ゲリラライブやコンペへの出場も果たし、就職採用では、その活躍が決定打となった。それほどの特技が誇らしくないわけではないが、実に、本当に恥ずかしいのである。私はマイクを握っていなければ、偏差値70くらいの優秀なシャイボーイだった。

 「就職しちゃったら、もうできないよ」

 うーん、と私は言葉に詰まる。

 校門の前で仁王立ちした私の髪は、久しぶりに鶏冠のような体を成していた。これに関してはただの寝癖である。レザージャケットやジーンズはキメてきたが、これだけは頑固で修正できず、「もうオシャレってことでいいじゃん」と妹に背中を押されたため、そのままで来てしまった。

 ギターを担いでとりあえず覗いた職員室には、意外に人がいなかった。しかしすぐに懐かしい顔が、「いやぁ、来おったか!」などと言いながらやって来て、私の肩をバンバンと叩く。

 「俺も久々のライブ楽しみにしてるから。もうすぐだろう?頑張ってこいよ!」

 既に話は通っていたのか。渡された業者印刷のパンフレットを見ると、私の出演時間には「マル秘ゲスト!乞うご期待!!」と書いてある。奴め、さては相当以前から決め込んでいやがったな。

 控室には妹達のバンドがいた。私はそのボーカルと最後に交代して、歌うことになっている。

 「ぶはッ。やっぱその頭キモいわ」

 妹の指摘に皆が笑いだして、私は堪らずギターを取り出した。

 「おいお前らぁ!俺がYASUOじゃぁ!今日は暴れるけぇ、よろしくのぉ!」

 うわ、恥ずっ、と妹が呻いたことは、気にしない。
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2011.11.12 Sat l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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