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 巻尺は「スケール」とも呼ばれるらしい。目の前にあるそれを、私はするすると伸ばしてみた。目盛りのついた金属質の帯が天井に向かって成長していき、とうとう2m。しかし、それ以上はもう、尺がなかった。

 「おい、お前はそれだけの大きさで満足していて、いいのか?」

 酔っぱらっていた私は一人で勝手に説経を始める。

 「世の中にはなぁ、お前なんかには測れないような、でっかいスケールの夢を持った人間がたくさんいるんだ。『身近な物はだいたい2mもあれば計測できる』なんて余裕をかましていたら、いつか巨大な箪笥にでも出会って面喰うだろうよ。井の中の蛙なんだ、お前は」

 するとポキンと帯が折れて、その先端部分が私の頭に垂れた。

 「馬鹿かお前」

 巻尺はそう言った。

 「俺には俺の役目がある。30mのどでかい巻尺なんか、誰がポッケに入れて持ち運ぶんだ?世の中はトレードオフだ、分かるか?大きさを立たせれば運びやすさが立たないんだ。第一、30mもあって、実際測る物が毎回50cmくらいしかなかったら、残りの29m50cmがまるで無駄じゃないか。9割8分が無用の長物になるよりはマシだよ」

 こいつ、巻尺のくせに生意気なことを抜かしやがる。

 「そんなことを言って、自分の立場を正当化してんじゃねぇよ。言い訳臭くて反吐が出る。トレードオフ?お前こそ、言葉の本質を良く考えろ。確かに普通のポケットに30mの巻尺は入らないけどな、巨人のでっかいポケットには入るんだよ。その可能性に至らないお前は、やっぱり小さすぎるんだ。水準が変わればな、トレードオフの許容範囲だって変わるんだよ。でっかい夢をもった奴はな、でっかい巻尺を持ってんだよ」

 「おいおい何を言う。俺は自分を必要とする場があると主張しているだけだ。確かに巨人のポッケに30mの巻尺は入るだろう。だがな、お前のポッケに入るのか?お前には、でかい夢を追えるだけの器が備わっているのか?自分の伸びしろを考えろよ!」

 「うるせぇ!」

 ぽたぽたと、膝の上に私の涙が落ちた。

 「……お前、どうせ何処かの偉いやつにでも、なじられたんだろう。悪い、今日はちょっと言いすぎたな」

 巻尺は、へちょんと萎れて私の肩にかかった。それは、力なく笑っているようだった。

 「実は俺もさ、30mの巻尺と喧嘩したことがあったんだ。それを思い出して、ついムキになっちまった」

 「俺も、ごめん。ただの八つ当たりさ」

 私はするすると帯をしまう。こいつが人間だったら、一緒に美味い酒が飲めるのに。
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2011.11.12 Sat l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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