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 カチカチ。

 「ねぇ、明日は何時に起きるの?」

 アナログ時計のアラーム時間を調節する僕に、従妹の奈央は横から問いかけた。だいぶ前に電気は消してあったから、目は暗闇に慣れ、表情までは読み取れないけど、彼女がこちらを見ているのは分かった。

 「四時半」

 奈央の目の中で動く自分のシルエットが気にかかって、僕は少し体を固くしながらそう答えた。

 「え、早くない?」

 「早くない」

 四時半ならもう日は昇っているし、そのくらいじゃないと、朝御飯までに、防風林での虫採りからは、たぶん帰って来られないだろう。

 ただ、僕はおじいちゃんの田舎に遊びに来れば、いつも四時には勝手に目を覚ましてしまうから、本当は目覚まし時計なんていらなかった。「奈央も一緒に行こう」という誘いがあっけなく断られてしまったことに加えて、「そんなモノズキじゃないもん」と言われたことで、僕はいじけていたのだ。だから、時間が来れば馬鹿みたいに五月蝿く鳴り響く、この目覚まし時計は奈央へのささやかな嫌がらせに他ならなかった。

 「じゃぁ、ラジオ体操までには、帰ってくるの?」

 「さぁ」と言うと、奈央は「ふうん」と相槌を打って、体を天井に向け直した。でも、まだ少し湿っている長い髪の、シャンプーの匂いが僕の鼻をくすぐったので、その香りを無くしたくなかった僕はやはり動くことを憚った。秒針だけが、耳鳴りの中で響いていた。

 そのまま眠りに落ちて、次の日も四時に目が覚めてしまった。昨日の夜闇はすっかり無くなって、部屋は柔らかい光に晒されていた。

 ふと横を見れば、奈央はこちらに顔を向けて、和らげな表情で寝息を立てていた。それをしばらく見つめてから、僕は一度ギュッと目を瞑り、ゆっくり起きることにした。

 窓からキジバトの声が聞こえ、僕はその方向を睨んだ後、枕元の時計を手に取る。本気で嫌がらせをするつもりなんて始めからなかったし、一晩たてば、いじけた気分も忘れていたから、僕はアラームを、ラジオ体操の五分前にセットしてあげた。

 忍び足で部屋の端まで歩き、ドアノブを回す。しかし古い扉はどんなに慎重に開けても、軋んだ音を噤んではくれなかった。その音に、モゾリと奈央の布団が動く。

 「……ってらっしゃい」

 それから再び動かなくなった、奈央の布団。「いってきます」と、僕はそれに小さく応えて、扉を閉めた。

 冷たい空気の中を走りだす。あのアラームが鳴るまでに帰って来られたら、今日は、きっといい日だ。
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2011.11.13 Sun l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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