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 借りていた映画のDVDを返す際、私は彼女に感想を聞かれた。新緑が香るさわやかな六月の話である。

 「主人公の挙動が僕の笑いのツボをよく突いたから、そこは楽しく見られたな。でも最後の大どんでん返しはどう考えても無理があると思った。主人公の性格はとても冷静、かつユーモラスなんだ。しかも彼の親父が死んだときでさえ本気でジョークを飛ばしていたことから、彼のスタンスはよほど強く保たれていると考えられるわけ。それにしたがうとさ、彼女がエイリアンに食われるくらいであんなに取り乱すわけがないんじゃないかな。その設定的な致命的矛盾は残念だった。話の展開を強引に推し進めようとする意図が見え透いているという点でね。あと作品全体の話として、BGMが狙いすぎなんだよな。カットごとに切り替えれば何でも最良と思っているみたいだし、無音の効果も無視しているように思われる。んで発見したのがさ、最後のエンドロールだ。あの映画、シナリオ監督が音響監督もやっているらしいよ。どうやらそいつがいけなかったようだな。演技の方で救われているところはあるけれど、やはり雰囲気と展開の安っぽさは否めない。したがって、以上のことをまとめると僕の感想は『面白い部分もあったけど、全体的に陳腐で失笑した』ってことになる」

 私は一生懸命に自分が思ったことを説明した。

 以前同じケースにおいて私が作品の評価を述べると、彼女は「それは感想ではなく論評である」という抗議を暴力的な表現により30分もかけて展開した。それを受けて私は反省し、今回に臨んでいるわけである。感想と論評の違いは何か。それは、主観が入るか否か、である。だから私は、普段は使いもしない「楽しく」とか「残念」とか、あげく「失笑した」などという主観的表現を織り交ぜて話したのである。

 しかし、彼女の反応は、私の予想を大幅に下方修正しなければならぬものだった。

 「はぁ……せっかく貸したのにまた訳分かんないこと言ってるし。もういいわ」

 「どこが分からなかった?無音の効果の話だったら例えばさ、エイリアンの蛸足をトムが刺身だと思って食べちゃうシーン。衝撃的なのは分かるけど、一瞬の理解に詰まる『間』っていうのがひt――」

 次の瞬間、私は彼女によって右頬に打撃を受け、彼女は憤慨した表情で「私の知らないところで生きて。この幸せ者が」という言葉を残し、去って行った。私は呆然としながら、「ありがとう」と言うほかなかった。
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2011.11.14 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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