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 じゃんけんに負けて皿を洗わされた。今日は僕の誕生日会だというのに、彼女による僕の扱いは無条件に無差別的だ。一時間近くかけてようやく仕事が終わり、流し台の蛍光灯を消した僕は、やれやれと溜息をつく。

 台所を出ると、リビングでは彼女が背を向けて座り、テーブルの上で何かをしていた。

 「何やってるの?暇人さん」

 頭上から声を掛けられた彼女は僕を見上げ、にんまりとした笑みを浮かべた。

 「飛び出す絵本つくった」

 そう言って僕に差し出したのは、ささやかなバースデーカードだった。絵本といっても、ページがあるわけではない。開くと四角いケーキが飛び出す、ごく単純なものだった。

 こういうのは今作るものじゃぁないだろう、と僕はようやく受け取った誕生日プレゼントに苦笑を漏らす。だが次に、そこに書いてある「ずっと大好きだよ」という汚い字を見て、堪らず彼女の頭を抱きしめた。

 子供っぽい彼女は危なっかしく、僕は放っておけずにしょっちゅう面倒を見ていた。すると彼女はすぐに僕になつき、いつも僕と一緒にいるようになった。

 「ずっと一緒だよ」

 うん、ずっと一緒。その柔らかい頬が、艶やかな髪が、舌足らずな声が、美しい眼差しが、僕から遠く離れてしまうことなどは、もう、考えられなかった。

 永遠とも思われる三年間が過ぎた。まだ二十年も過ごしていないのに、僕は学生服で過ごすその時間を、勝手に僕の到着点なのだと思っていた。だが、永遠は終わる。ずっと一緒にいた僕たちは、そのまま永遠の向こう側には、行けなかった。

 彼女は僕と一緒に遠くの大学へ行きたがっていたけど、いろいろな面で、それは許されるものではなかった。僕は地元就職も考えたのだけど、結局なんとなく、自分の可能性に手を伸ばした。永遠を信じていた僕は、それが浅はかなことだったのだと、後で知ることになった。

 塞ぎこんでいた彼女に、僕は通常営業を装って「何やってるの?」と話しかける。

 「飛び出す絵本、つくったよ」

 僕は彼女に、二つ折りの画用紙を渡す。彼女が開くと、そこには手をつないだ二人の男女がいて、もっと開くと、二人の顔が近づき、唇を重ねる仕組みになっていた。

 とても恥ずかしかったが、彼女しか見ないのだと思って、僕はそのラブレターに、「二人だけの永遠」と書き込んだ。その後に堪らなく悲しくなって、だいぶ滲ませてしまったのだが。

 小さな彼女は痛々しいほど愛おしげに微笑み、僕は堪らずその頭を抱きしめた。


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テーマソングは「バイ・マイ・サイ」by radwimps
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2011.11.14 Mon l 1000文字小説 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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